b型肝炎の集団感染に関する考察

b型肝炎は発症すると肝硬変や肝がんを起こす可能性がある病気です。この病気をめぐっては、集団予防接種を原因とする集団感染が大きな問題になりました。そこで、なぜ集団感染は起こったのか、その原因と集団感染に至った仕組みについて、考察していきます。

また、2000年代になって確認された、集団生活での感染についても考察を行います。

予防接種と集団感染

b型肝炎の集団感染で、大きな問題となったのが集団予防接種です。現在はBCG等ごく一部のみを、自治体などの主導で保健所等で行っていますが、1990年代ごろまでは一部の予防接種が義務(純義務)接種として、学校や保健所などでの集団接種が行われていました。

一定の年齢以上の人なら、赤ちゃんの頃には誰もが経験しているはずですし、小中学校の頃にクラスごとに並んで注射をされる順番待ちをした記憶もあるでしょう。多くの人に効率よくワクチンを接種する事を目的として、このような集団接種が行われていたわけです。

この集団接種が、b型肝炎の集団感染を引き起こす原因となりました。その原因が、注射器(注射筒、注射針)の使い回しです。1948年から1988年の40年間に渡って使い回しが行われ、これによってb型肝炎の集団感染が起きるに至ったわけです。

集団接種が始まった当時は、衛生管理やb型肝炎等血液感染する病気への認識が希薄だったこともあり、1本の容量の大きい注射器で複数人に連続して接種する、という手法が当たり前のようにとられていました。これが原因となり、既にb型肝炎ウイルスを保有しているキャリアの子から他の子へと、ウイルスが感染していったのです。

集団感染はなぜ起こったか

では、どのような仕組みで、予防接種による集団感染は起こったのでしょうか。ワクチンを接種するためには注射針を体に刺し、そこから注射筒内の薬液を注入します。そして針を引き抜く時、注射針の中には僅かに血液や体液が入り込みます。

これを続けて別な人に使用した場合、薬液と共に、注射針に入り込んだ血液や体液も一緒にその人の体内に入ることになります。注射針に入っていた血液や体液にb型肝炎ウイルスが含まれていれば、ウイルスも一緒に次の人の体内に入ってしまう、というわけです。

こうした感染経路が分かってきた事で、国は1958年に注射針の使い回しを禁止し、1人ごとに取り換えるよう指導を行いました。しかし、それだけでは不十分だった事が分かってきます。注射針を引抜く時に入り込んだb型肝炎ウイルスは、注射筒の中の薬液にまで達していたため、注射針の使い回しを禁止しただけでは、集団感染は止まらなかったのです。

結局、1988年に注射筒の使い回しも禁止されるまで、注射器の使い回しは続き、推定されているだけで40万人以上という大量の集団予防接種の注射器使い回しによるb型肝炎の集団感染者を生んでしまったのです。

実は1953年には世界保健機関(WHO)が注射器の使い回しに対する危険性を指摘し、中止を勧告しています。国は30余年に渡って危険性を知りながら放置してきた事になります。

b型肝炎の集団感染訴訟

多くの感染者を出す事になった集団予防接種の注射器使い回しによるb型肝炎への感染。この事実は、訴訟が行われたことで多くの人達の知る事となります。発端となったのは、1989年に北海道のb型肝炎感染者5人が国を相手取って起こした訴訟です。

5人の人達は、b型肝炎ウイルスへの感染は、幼少の頃に受けた集団予防接種で注射器の使い回しが行われた事が原因であるとして、集団予防接種を実施した国の責任を問い、損害賠償を求める訴訟を起こしたのです。この訴訟は最高裁まで争われた結果、2006年になって国の責任を認める判決が下される結果になりました。

しかし、国は訴訟を起こした5人以外への責任を認めず救済を行わなかったため、2008年以降、全国でb型肝炎訴訟と呼ばれる集団訴訟が次々と行われていく事になります。2011年に原告団と国が和解し、2012年に救済のための特別措置法が施行された後も新たな訴訟は起こされ、2013年には、提訴した患者さんの人数は1万人に達しました。

しかし、これでも集団予防接種が原因とされる患者さんの推定数からすれば、ごく一部にしかすぎません。集団感染被害者の全体把握や救済は、まだ道半ばであり、2018年以降どれだけ救済が進むのか、注視していく必要があります。

集団感染の救済制度

2012年の特別措置法施行に伴って、予防接種によるb型肝炎の集団感染者に対して、国から給付金を受け取れる制度が定められています。申請を行って認められれば、b型肝炎の症状の度合いなどによって50万円から最大3,600万円の給付金を受け取る事ができます。

対象となるのは、満7歳までに1948年7月から1988年1月までに集団予防接種を受け、その際の注射器の使い回しによってb型肝炎ウイルスに感染した人と、それに該当する人から母子感染した人です。

また、対象となる人が既に亡くなっている場合、その相続人となる人も対象に含まれます。給付金を申請するには、自分(または自分の相続元となる人)が対象である事を証明しなければなりません。必要となるのは、b型肝炎ウイルスに持続感染している事を示す直近の検査結果、母子手帳や陳述書等の集団接種を受けた事や受けた時期を証明する物、母親が感染者でない事を示す検査結果(母子感染でない事を証明するため)、過去に受けた医療行為を記したカルテ等(輸血等、集団予防接種以外の感染でない事を証明するため)です。

母子感染者の場合は、母親についてこれらの書類によって集団予防接種が原因である事を証明し、自身が母子感染である事を証明する書類が必要となります。

集団生活と集団感染

また近年では、集団生活の場でb型肝炎の集団感染が発生する、という事例も報告されています。2004年に佐賀県の保育所で発生した事例がこれです。当然発生年から予防接種が原因ではありません。この事例をきっかけとして、それまでは血液や分泌液が主な感染ルートとされていたb型肝炎が、汗や唾液、涙等からも感染する可能性が指摘される事になりました。

保育園や幼稚園、学校等、集団生活の場では他人と触れ合う機会も多くなります。傷口等直にウイルスが侵入する可能性のある場所を露出させないようにする等、気を付けておいた方がいいようです。もちろん、ワクチンの接種もきちんとしておいた方がいいですね。